夢のはじまり。

 

  前を走るタクシーにステッカーが張ってあった

  そのフレーズを見るたび 懐かしさと高揚感が蘇る

  数年前 コンサドーレが掲げたキャッチフレーズ 街全体のベクトルがひとつに向かっ

 いた

 

 

作:kazua510

 

夢のはじまり」 

 

先日 少年たちのサッカーに この言葉を実感することができた

山崎七郎杯 U−10 全市大会。 会場には 少年たちの夢の一歩が 溢れていた。

 

 

前回の「外伝・コンサの星」で書かれているように コヒカの愛息子コ君のチームが

山崎七郎杯地区予選を勝ち上がり 全市大会出場を決めた

大会の概要は 各地区予選を勝ち上がった24チームが 3会場に分かれ

各上位2チーム 計6チームが 7月に岩内で行なわれる 全道大会に出場する

4チームのトーナメント戦で 2回戦を勝てば全道大会出場が決定するのだ。

 

6月25日 午前9時30分 清田区某小学校 到着。

ルンバ氏から「コ君の応援行きませんか?」のメールに 躊躇いもなく「行きます」と

答えたまでは良かったのだが よくよく考えてみれば…

 

この日 父親のコヒカ氏は仕事のため応援できないとのこと

叔父のしのかい氏も用事のため来れない そんな中 父の友人と言うだけの関係性の2人

しかも 内1人はサングラスの怪しい男だ 曇り空なのに外そうともしない

小学校の敷地内に入れて良いものかどうかも討議されそうな2人が 到着した。

 

会場である奥のグラウンドを目指し 歩きながら ふと考える ルンバ氏に聞く

k「コのチームって何色のユニフォーム?」 R「さぁ……」

k「コヒカ妻さんは来てるんだよね?」 R「…たぶん」

何の情報もないまま このグラウンドへ着いてしまった 大丈夫か俺ら?ふと不安が過る

グラウンドに入ると選手たちが大勢いた 応援の父兄も来ている

が そのほとんどは 母親だった。 父でも親類でもない おっさん2人。

 

多少 場違いな空気が肌を刺す。それはピリピリと痛く体中を突き刺した。

 

必死でコ母を捜す ルンバはこの時 マルコの気持ちがよく分かった と言う。

一瞬 途方に暮れるも コ母が見つけてくれた。 三千里は遠く感じた…。良かった。

コ母から情報を聞き コ君のユニフォーム・背番号・試合時間 全て確認した。

 

「ところで 山崎七郎杯の 山崎七郎さんって誰なんですかね?」 ルンバが聞く

「あれ?知らないの?うちの隣のおじさんで よく庭のトマトかっぱらって 怒られたな」

と もはや お約束のような笑えない会話をしつつ 試合を待つ。

 

午前10時 いよいよ試合開始。コ君のチームは第一試合。嫌が応にも緊張は高まる。

8人制 15分ハーフの前後半。同点ならば即PK戦で勝敗を決めるというルール。

ほとんどのチームはGK・DF3人・中盤2人・FW2人 と言う3−2−2の布陣で

コ君はFWの左に入った。いきなり“得点王”の期待を高めるが コヒカの言葉を思い出す

 

「うちの子 技術ないんだけど 守備するんだよねぇ 前線からガツガツ行くんスよ」

 

なるほど。それは大事な役割だと思う。

例えばジーコが鈴木を使うように 柳下監督が中山を軸にするように

前線からの守備は 近年のサッカーに欠かせない。

思うに 攻守一体型の現代では ポジションの概念が変わってきている

FW=得点と言う図式は薄くなり DFでもMFでも得点を奪えるサッカーを目指している

特に守備面では その役割は細分化され 各ポジションに運動量が必要とされている

言うなれば“守備をしない選手は必要とされない”のが今のサッカーなのだ。

 

いや コ君がそれは意識しているかどうかは 定かでない。

だが 彼の 前線での献身的な守備は効いていた。相手チームが思うようにボールを運べない

そして中盤の選手が上手くゲームをコントロールし 試合を優位に進めた

着々と得点を重ね 2−0で向えた後半 コ君にこの日最大のチャンスが来た

ゴール前 混戦の中 ファーに構えていたコ ボールが目の前に転がる

ゴールはすぐ目の前 フリー 決めろ!打て!打つんだーコ〜!!

 

がしかし 入らなかった。 打つ直前でDFの足に阻まれた。

 

仕方がないさ。そう言う時もあるさ。

それでもコ君のプレーは勝利に大きく貢献した。

第一試合という緊張する場面で スタメンを張り 全力を尽くした。

何より結果が伴ったのだから 満足の試合だった。

 

そして この試合を勝った事で 全道大会出場が目前に迫ったのだ。

いよいよもって 岩内行き が現実味を帯びてくる。

札幌と岩内は微妙な距離間がある だがルンバと言う男 時々無謀な行動に出る

おそらくコが出場を決めたならば 即 決定しただろう そうなればkazuaも一緒だ

コンサの試合と重ならなければいいが… 期待と不安が入り混じりながら

1時間半後の第2試合を待った。

 

唐突に 「腹減ったっスね コンビニ行きますか?」 ルンバが言う 

少ない駐車スペースに車を入れたため 出すわけにいかず 徒歩で向かう

近くにコンビニがないか父兄に聞く グラウンド裏の公園を抜けて 国道沿いにあると言う

その指示通り公園をひたすら歩く 鬱蒼と木々が茂る森だ いやジャングルに近い

歩けど歩けど国道は見えない 目の前のフェンスを越えなければ 行き着かないのだ

結局 そうとうな遠回りをしてコンビニに行き着いた

そして 会場へ戻る道 またも我々の行く手を阻むフェンスが見えた

「これさえなければ 会場はすぐそこなのに…」 私はあきらめかけていた

だがルンバは違った 猛烈に燃えていた メラメラと闘争心に火がつき 金網に挑んだ

 

フェンス越え。 やってしまった。 おっさん2人が。

 

mのフェンスに飛びつき よじ登り 飛び降りた。無謀な男 ルンバ 本領発揮だ。

Kazuaは出来るだけ音を立てないようにした。そっちの方がカッコ良いと思ったからだ。

だが着地に失敗し 手を付いてしまった。減点だ。

 

何事もなかったように 試合会場へ戻ると 他チームの試合が行われていた。

この試合の勝者が 次 コのチームと当る相手だ すぐさま偵察を開始する

両リームともレベルは高い どちらが勝っても 次はキツい相手であることに違いない

程なくして試合終了 勝者は粒の揃ったチームだった

守備・中盤・攻撃とどの選手も ソツがなく 特にFWはかなりアグレッシブな選手だ

マッチアップするコが 相当ヘビィな戦いになるのが予想できた。

 

次の2試合は別ブロックの試合。この4チームからも1チーム全道出場が決まる

1つ目には もの凄い上手い子がいた。中盤の選手でドリブルが半端じゃなかった

重心が低く ボール扱いも完全にコントロール出来ている 誰も止めることは出来ない

傍目で見ていると ボールの扱いは高校生ぐらいに見える それほど素晴らしかった。

 

もう一つの試合は コンサドーレのジュニア。これもここへ来た理由のひとつだった。

プロの下部組織 その第一歩と言える U−10。その様子が見たかった

感想は 強かった。ただただ強い。そう思うしかなかった。

体は平均的に大きく 止める蹴るの基本技術もしっかりしている

何よりチームのバランスが崩れない。守備時も攻撃時もほとんど崩れることはない

個人・組織 両方ともひと段階上 この世代ナンバーワンである事に疑いはなかった。

 

 

そして運命の第2試合 コのチーム。全道大会行きが決まる試合が始まった。

さすがに両チームともモチベーションが高く 引き締まった試合になった

コの動きも格段と良くなり 前線から激しいプレスを掛ける

そのスピードで 相手の突破を塞ぐ場面が 何度も見られた

中盤でのボールの奪い合い 互いに譲らない攻防が続いた

試合は1点を争う好ゲーム その後半 緊迫する空気の中 ルンバ氏の携帯が鳴る

「あ どうも 今ですか コ君の第2試合です はい まだ 0−0です ええ…」

相手はどうも 某Sくたろう氏のようだ。…ちょっと怪しい空気が流れる

まさか 電話だけで あの 例の 負のパワーが 送られるなんてことは…

 

予感は 的中した。 失点。 電話を切った直後だった。

 

押されてはいたものの 何とか無失点で切り抜けてきたが とうとう点を許してしまった

その瞬間 ルンバ氏がもの凄いニガニガしい顔で 携帯を睨んだ。

その後 反撃をするも 終了の笛は無常に鳴り響く。0−1の敗戦。

残念。惜しい試合だったが チームは全力を尽くしていた。

今年の2月 彼らのフットサルを見に行った その時はまだ個人技術がどうと言うのではなく

サッカー自体をどうやればいいか 戸惑っているように思えた

だが あれから僅か4ヶ月で 驚くほどの成長をしていた

こうした方が良い こうやりたい そんな気持ちがプレーに表れている

岩内には届かなかったが その寸前まで行けたことは 胸を張って良いと思う。

 

そして そのチームのレギュラーを勝ち取った コ君。

君は絶対 良い選手になる。そのガッツ そのスピード その強さ 間違いない。

そして 試合中 周りで叫ぶお母さんたちの声が 暖かかった

「頑張れー!」「いいよ〜!そのまま〜!」そんな声を選手は感じ取っている

今 自分のプレーがどうだったか ひとつひとつ感触を得ている

そうして 選手は成長する。 昨日より今日 今日より明日 日々成長している。

 

ただ 同時に気になることもあった。他チームの応援にだったが。

時々耳を塞ぎたくなるような言葉もある チームの監督からも同じように。

何故だろう 期待するのは分かる わが子の応援に力が入る事も分かる

だが行き過ぎないよう心掛けるのが 大人なのではないだろうか。

試合中叱り飛ばすのはいかがなものか思う 試合の主役は選手たちなのだ。

 

あるチームの監督が 試合中ずっと選手を叱っていた

さすがに気分が悪くなり ひと言 言おうかと思っていた時 ハーフタイムに入った

監督の元へ選手が寄る みんなの前で監督が言ったのは

 

「このままなら10点取られるぞ いいのか?悔しくないのか?

 おれは負けても仕方がないと思ってる でもな このまま負けるのはいやだ そうだろ

1点       取って来いよ な 戦えよ 戦って負けろよ 逃げるな な そうだろ」

 

なにか救われたような気がした。

やはり部外者の私には分からない愛情がある 厳しさはその裏返しなのだろう

それでも 多少は余裕を持ってもらいたいものですが。

 

余談ですが 先日のコンフェデで 日本代表は良く戦っていました

3戦とも強豪であり 惨敗を喫しても不思議じゃない相手

だが そんな予想を超え 腰の引けてない しっかりとした戦いをしていた

それは ジーコが目指しているサッカーに近付いている証なのでしょう

何かようやく世界のサッカーの仲間入りをした感があります ランキングとは別の意味で。

ただ 惜しむらくは「もっと楽しく」と思ってしまいます

必死で戦う事は凄く大事です ですが その上で 楽しさを忘れずにいてほしい

それは10歳でも日本代表でも同じで。

ジーコの根底にも きっとそう言う想いがあるのではないでしょうか。

 

 

その日最後の試合となるコンサドーレU−10を見届け 会場を後にした

時計を見ると2時5分前 2時からはJ2 札幌対横浜戦が始まる

清田から猛スピードで白石へ帰った。

後輩たちの全道行きを祝福するかのように 2−1の勝利

チームは勝ち点27 得失点差で5位ではあるが リーグ2番目の勝ち点数になった

昇格も もしかしたら と期待してしまう。

 

「夢のはじまり」 まさに 今が そうなのかもしれない。

本当の意味で 強いサッカーチームになろうとしている今が はじまりかもしれない。

 

そして このU−10の大会。 サッカーを初め 覚え 走り出す。

その目指す先にはプロが見えるのだろうか 日本代表だろうか。

漠然と遥か遠くを見詰めながらも 目の前の道を一歩 歩き出す そんな瞬間だ。

楽しみな子もたくさんいた。キャプテンシーのあるリベロ。南米並みのドリブラー。

スピードもテクニックも抜群のFW。やんちゃなストライカー。

そして前線からガツガツ行くコヒカの愛息子。

今すでに 魅せてくれる プレイヤーだ。

 

だが 彼らの活躍は まだ 序章に過ぎない。 夢のはじまりなのだ。

 

これからが本当のサッカーだ。 悔しさも 辛さも 怖さも 味わわなければならない。

それでも頑張れ。ゴールは遥か遠くても 走り続けてください。

そして良いサッカー選手になってください。

 

君たちの夢は 僕らの夢でもあるのだから。

 

 

 

     

 

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